「図を描きましょう」……中学受験算数で必ず聞く言葉です。貴方も、貴方も、貴方も、合格者の保護者の方で、この言葉を使わず中学受験を乗り切ったという方は、一人もいらっしゃらないでしょう。
しかし、子どもたちが改まって「ナンデ図、描かなアカンノー?」と尋ねた時、何人の方が明確にお答えいただけるでしょう。……ナカナカですよね。
①「分かり易いでしょ」、②「内容を理解できるからよ」……なるほど、うまく答えていらしゃるようにみえますが、その後、幾日かすると、また図を描かずに解いていませんか。
解いていますよね。それは上の①・②のような表現では、図を描くことの本当の意義が伝わらないからです。では、どのようにその長所を伝え、適切な図が描けるように導けばよいのでしょう。
そのためには、まず保護者の方が持つ図というものに対する漠としたイメージを、もう一度整理したいと思います。なぜなら、伝える方の適切な理解なくして、その必要性や優位性を伝えることは不可能だからです。
ひと言に図といってもさまざまな種類があり、問題の性質に即したものを選択し、利用しなければ正答に辿り着きません。では、実際どのような図を必要とするか整理してみると、大まかには次の通りです。
(これらの分類は、私が子どもたちに伝えるため便宜的に分類しているもので、公的なものではありません)
1.線分図…①1本の線分を内分して数量関係を理解する
*もとになる数に変化がない時や全体総量に変化が無い時に使用
*分配算など全体総量が規定されている時に有効
②2本・3本と縦に重ね、数量の変化を理解する
*もとになる数が順次変化していく時や比・数の大小関係を比べる時
*売買算・和差算・相当算・年齢算や割合を利用した問題に有効
2.面積図…①柱状の棒グラフをヨコに列記しその大小関係を比べる
*平均算
②タテ×ヨコが面積であることを利用する
*つるかめ算・塩水算
3.その他…①ダイヤグラム・進行グラフ・周回図=旅人算・水量算
②天秤図・フローチャート=塩水算
③中実方陣・中空方陣=方陣算
④時計図=時計算
⑤並木図=周期算
⑥状況図・河川図=通過算・流水算
⑦言葉の数式図=過不足算・消去算
⑧平面図=相似・求角・求積・等積移動
⑨立体図=相似・求積・切断
⑩樹形図=数の数え上げ・組み合わせ
4.作図の手順として注意すべき点は
①問題文に明示されている条件を全て記入する。
②明示された条件のなかで数値的でない表現を数値化し、記入する。
③①及び②の条件の記入により、新たに規定できることがないか考え、あれば記入する。
作図とは、4-③を導くために行っているといっても過言ではありません。4-①・②は4-③求めるための過程です。③が見付けることで設問の意図が把握でき、正解へと向かいます。上記の中の適切な図を問題文の内容に沿って描けることができれば、8合目まで到着です。後は9合目=数式化する、頂上=ミスせずに計算→解答となります。
子どもたちが多くの問題演習を行う目的は、このようにどの問題にはどんな図を描けば良いかを確認し、瞬時に対応する力を備えることにあります。そして、この訓練を続けていくことで簡単な問題では図を必要とせず、処理できるようになっていくのです。一概に図を描くといってもスキルが必要です。図を描かない子の殆どは、どんな図を描いたらいいのか理解できていません。口でただ図を描けと指示するだけでは描くことはできません。実際、できないことをスキルも知らずにやれといわれているのですから。
私は、4年生・5年生あるいはそれ以前の学習開始時、作図せずに解ける問題から作図して解かせることにしています。「この子賢いネ、暗算でできちゃった」ではなく、そんな頃からめんど臭がっていても作図のくせをつける。そうしていけば人間いつか慣れるものです。本当に必要とする時にあわてて身に付けようとするのは、お互い負担です。
今回ここまで、どんな図を書くのか具体的にイメージしていただきました。図とひと括りにせず、細かな指示が必要なことがお解りいただけるでしょう。次回は、本当に必要に迫られた時、図を書くことの優位性を如何に伝えるか、子どもたちの目線でお話したいと思います。