中学入試でも記述式の問題を出すところが増えています。理由はいろいろありますが、選択式の問題では、ある程度考えて読む力を身につけた生徒は、ほぼ全部正解になってしまうからだと考えられます。
それと近年大きく取り上げられることが多くなったクリティカルシンキングへの傾注が考えられます。
選択式の問題で難しい良問を作るのはかなり大変で、センター試験の問題作成者などは、よくがんばっていると思います。
問題を解くことに比べたら、選択式の問題を作ることは何倍も（かかる時間でいったらたぶん十倍以上）難しいのです。
それに比べると、記述式は問題作成が簡単です。そのかわり、採点が難しくなります。
そして、記述式の字数が長くなると、採点はその字数に比例する形で難しくなっていきます。小論文の試験になると、採点者は読むだけで大変です。
中学入試の作文試験というものの中には、かなり短いものもあり、２００字ぐらいのものでは、作文というよりも長めの記述試験と言った方がよいでしょう。
これは、おそらく長い文章を書かせる形にすると、採点が難しいからとい事情があるからだと考えられます。本来、生徒の実力が最もわかるのは、この小論文です。
それも、１本だけでなく、複数の小論文をそれぞれ１２００字以上書くような試験であれば、実力はかなりはっきり出てきます。
昔の東京大学の小論文が、一時そうなったことがあります。かなり長い小論文課題を複数書かせるような問題でした。
しかし、採点の負担が大きかったのでしょう。その方式は、長続きしませんでした。
記述式の問題が増えてきた背景には、以上の、（１）選択式では問題作成が大変なわりに、実力のある生徒はほとんどできてしまう、（２）小論文では生徒の実力はよくわかるが、多数の生徒を短期間で採点するのはほぼ不可能、ということがあると思います。
では、記述試験にはどのように対処していけばよいのでしょう。
毎年、今ぐらいの時期になると、当塾には、記述式の対策をしてほしいという問い合わせが寄せられます。
記述式の試験は、やり方がわかっているだけでなく、書くことに慣れていることも大事なので、塾でのご指導のほか、家庭で毎日取り組んでいただければ効果的です。
取り組み方は、こういう形です。まず、教材は昨年度の国語の入試問題集です。
その問題集の中の記述の問題を選び、ランダムにどの問題文でもよいので、その文章を読んだ感想または論旨を書く、という方法です。
文章を読むだけなら５分もかかりませんし、その上で、その文章に対する感想や論旨を字数を決めて書くのです。
その字数は、自分が受けようとする志望校の過去問の傾向に合わせておくとよいでしょう。
この場合、大事なことは、
（１）読んで、考えて、一気に書くということ。書いている途中で考えたり、書いたあと消しゴムで消して直したりということはしません。頭の中で書くことを考えたら、一息で書くように練習します。
（２）一文の字数は、５０字を平均としておきます。ですから、１５０字の記述であれば、３文でまとめるということになります。
（３）できるだけ字数ぴったりに書くようにします。５０字の記述であれば、５０字目の最後のマスに句点が来るぐらいに書きます。マス目がなく全体の枠があるだけならば、その枠に普通の字数でいっぱいまで書くようにします。
（４）説明文の場合は文章の輪郭がはっきりするように、物事を対比させる形で書いていきます。「ＡではなくＢである」という形です。物語文の場合は文章の深みが出るように、物事の二重の面を浮き彫りにさせる形で書いていきます。「ＡでありながらＢであった」という形です。この書き方が難しければパスしてもかまいません。
さて、このように書いたあと、保護者の方はどのように評価を行うかというと、書かれた文章がスムーズに読めるように書いてあればいいという点のみをチェックしてください。
保護者の方も問題文を読んで、その記述が問題文に対応したものになっているかどうかを見ることができれば、もちろんよいのですが、そういう評価の仕方をじっこうしようとすると、親保護者の方がだんだん億劫になってきます。
大事なことは、毎日練習して書き慣れるということですから、苦労するのはお子様だけでよく、保護者の方はその外側だけ見て、きちんと読めるように書いてあればそのことを褒めてあげていただければいいと思います。
このように毎日練習をしていると、書くスピードも上がり、読む力もつき、字数ぴったりにまとめる力もついてきます。
こういう学習を普段から行えればいいのですが、実は記述対策の学習や作文の取り組みは、子どもたちの心理的な負担が大きいので、受験という目標がなければなかなかできません。
したがって、受験をきっかけに、家庭で記述式の学習ができるということは、お子様のこれからの成長の糧としてもとてもよいことなのです。
