アルゴの中学受験日記

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読書の森

心に残る表現を考える

心に残る表現を考える

とても美しい夕日を見ました。この美しさをどう文に表しましょうか。今年はじめての雪を見ました。この雪を書き現すのに、ぴったりの言葉はなんでしょうか。

こんな時が、文を書く上で一番苦労し、一番楽しい瞬間です。

いろいろな人がぴったりの言葉を一生懸命考え、工夫をこらしてきました。たとえば、太宰治の「千代女」という短い小説に、こんな一節があります。主人公の女の子に、作文を教えている先生の言葉です。

「雪がざあざあ降るといってはいけない。雪の感じが出ない。どしどし降る、これもいけない。それではひらひら降る、これはどうか。まだ、足りない。さらさら、これは近い。だんだん、雪の感じに近くなってきた……いや、まだ足りない」

この先生は、自分はたいして作文がうまくないのに、無理矢理この女の子の家に来て、おしかけ家庭教師をしているのです。そのせいか、かなり苦労しているようです。その点、小林一茶という俳人は、みごとに雪を表現しています。

「うまそうな 雪が ふうわりふわりかな」

どうです? ぼたん雪が空から落ちてくるさまが、ありありと目にうかぶような表現です。「うまそうな」という言葉が、とても心に響いてきます。

他にも二つほど、心に残る表現を紹介します。松谷みよこの童話、「モモちゃんとプー」の中の一節です。

「あかちゃんは大きな口をあけ、なみだをふりとばして、おう おう おう れいいれいい れいい となきだしました。」

はじめてこの文章を読んだとき、私は首をかしげました。赤ちゃんは、「おぎゃあおぎゃあ」と泣くはずです。「れいい れいい」なんて泣くわけはありません。

ところが、自分の家に子どもができて、驚きました。たしかに「れいい れいい」と泣くのです。

松谷みよこは、昔からある「おぎゃあ」という表現にまどわされず、自分の心と耳で赤ちゃんの泣き声を聞いて、みごとに書き表していたのです。

もう一つ、日本を代表する詩人、谷川俊太郎の詩を紹介します         

「人類は小さな球の上で 眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間をほしがったりする
火星人は小さな球の上で何をしているか 僕は知らない 
(あるいは ネリリし キルルしハララしているのか)
しかし ときどき地球に仲間を 欲しがったりする
それは まったく たしかなことだ」

谷川俊太郎さんは、ふざけているのでしょうか。いいえ、そうではないと思います。

火星人が火星の上で、私たちに計り知れない何か不思議なことをしている。それをどう言葉で表現するのか。

やはり、ネリリし、キルルし、ハララしている というのが、一番ぴったりくるような気がしたのでしょう。

想像力と言葉、この二つを繋ぐものは瑞々しい感性なのだと、いつも教えられます。生徒たちもたくさんの本に触れることで、鋭い感性と豊かな想像力への扉を開いてほしいものです。

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