お父さん、お子さんに何か話していますか。
朝早く出勤して、夜遅く帰宅するとお子さんと接する時間はあまりありません。そこへたまの日曜日、お子さんとゆっくりできる時間ができても、共通の話題があまりないため、「勉強はどうだ。ちゃんとやってるか」「うん」という会話になってしまいます。お子さんが小さいころは、会話よりも遊ぶことが中心で、どこかに出かけて楽しくやっていればコミュニケーションは取れていましたが、お子さんの生活が勉強中心になってくると、そうそう遊びにも行っていられません。お子さんが塾に通う時間が長くなればなるほど、ますます会話の題材はなくなります。そんなときに生きてくるのが科学の知識です。
子供たちはもともと知的好奇心が旺盛です。今はその知的好奇心に受験という圧力がかかっているので、関心そのものがテストや成績の方に向きがちです。しかし、本当は、知ることそのものに喜びを感じているのが子供です。アインシュタインは、子供のころ学校が嫌いだったということです。しかし、家に帰るとヤコブおじさんが、数学の面白い話をしてくれるので、そこから学問に対する興味を深めていったとのこと。ヤコブおじさんは、勉強を教えてくれたというよりも、勉強の面白さを教えてくれたのです。
お父さんが科学の話をするときに役に立ちそうな本に、ナツメ社の図解雑学シリーズというものがあります。試しにAmazonで「図解雑学」を検索してみると、次のような書名が並んでいました。「孫子の兵法・統計解析・ゲーム理論・失敗学・ディベート・マクロ経済学・よくわかる色彩心理・ミクロ経済学・自動車のしくみ・三角関数・人間関係の心理学・多変量解析・社会心理学・心理学入門・超ひも理論・決算書のしくみ……(こういうシリーズが400冊近くあります)」
この中で自分自身が関心のあるものを読むと、大人でも「はあ、そうだったのか」と感心することがあります。新しいことを知るというのは、大人にとっても感動のあることなのです。その感動の薄れないうちに、お子さんに話をしてあげる。すると、お子さんは知識を吸収するとき、話し手の感動も一緒に吸収します。百科事典のようなものをただ読ませても、頭の中にはがらくたの知識が詰め込まれるだけですが、身近なお父さんやお母さんが感動をもって話した知識は、お子さんの頭の中で生きた知識となっていきます。
このような話をお子さんが小学校の低中学年のころからしていると、お父さんの話もだんだん上手になってきます。プロの話し手である落語家も、最初からプロであったわけではありません。みんな時間をかけて上手になっていったのです。お父さんが、毎週子供に面白い科学の話をしてあげることができれば、1年も経たないうちに話しのプロになっているでしょう。
ここで、ひとつ大事なことは、お母さんの応援です。お父さんが話している間、お母さんも感心して聞いてあげることです。もちろん、お母さんが話しをしているときは、お父さんも感心して聞いてあげることです。つまり、大人どうしが揚げ足を取らない(笑)ということが大切です。このような家族の話しができれば、その影響は次の世代に続いていきます。小学校時代に、お父さんやお母さんから楽しい科学の話を聞いて育った子供は、自分が親になったときにも同じように、子供に楽しい知的な話をするようになるでしょう。今は、家庭の中に、そのような知的な会話がないから、塾の話や成績の話ばかりが話題の中心になってしまうのです。
もうひとつ大事なことは、テレビを見すぎないということ。テレビも確かに新しい知識を吸収することのできる媒体です。しかし、テレビで提供された話題は、お父さんやお母さんだけでなく、お子さんもほかの人も同じように知っています。同じものを見て「面白かったね」「うん」では話がはずみません。知的な創造というものは、互い異なる知識を前提に成立していくことは確かです。
知的な会話がある家庭では、テレビはあまり登場しません。テレビを見るよりも、みんなで話すことの方がずっと楽しいことを家族全員が知っているからです。こういう家庭の文化が、真の学力の土台になることはいうまでもありません。