小学校低学年から作文の学習を始めようというお子さまの中には、一般的にいうかなりよく学習のできる子がいます。
学年程度の学習はもうすっかりできる子が、それ以外に、何か知的な面白い学習としてとしてこれから記述力も必要となるしということで、作文教室に来ることがあるのです。
もちろん、反対に超がつくほど作文が苦手というお子さまも来ます。
しかし、そういうお子さまは特に問題がありません。
定期的な読書活動と長文の音読習慣を励行して、書く上げる文章のいいところを褒めていけば、必ず上達していくからです。
問題は、よくできるお子さまの方にあります。
小学校低学年でよくできるのですから、学校のテストなどは常に百点です。
何をやってもよくできるので、家庭や塾を通じて、学年より先に進んだ学びをしています。
つまり、飛び級の学習にも対応できます。
そんなお子さまは総じて、学習の達成度が高いだけでなく、生活態度もしっかりしているため、学校のクラスでも自然にリーダーのような役割を果たしています。
そういう模範的なよくできる子のどこが問題になるかというと、そのよくできること、できすぎること自体が問題なのです。
何が問題なのかというと…。
第一は、知的な理解が進んでいるので、実際の行動よりも理解が先になりがちなことです。
たとえば、算数の問題を解くとき、頭の中で考えて答えを導く子を思い浮かべてください。
問題がやさしいうちはいいのですが、そんな解き方は、早晩行き詰まります。
やはり、実際に図や条件を整理し、ノートに考え方に沿って数式をノートに書く子には叶わなくなります。
世の中には実際に体験してみなければわからないことがあり、その体験の中で予想とは違ったトラブルや失敗に遭遇するのが普通です。
そして、その予想とは違った失敗の経験から、知的な理解以上の多くのものを学んでいきます。
しかし、理屈による理解が先行しているお子さまは、やらなくてもわかったつもりになるため、実際の行動を省略しがちです。
小学生のころは、知的な理解が速い子の方が進んでいるように見えますが、学年が上がるにつれ、将来社会で活躍するようになる時期になると更に、理解よりも行動を優先する人の方が、成長が速くなっていくという傾向があるのです。
したがって、学習の達成度が高いお子さまは、学習以外に体験型の行動時間を確保してあげる必要がでてきます。
本をよく読むお子さまの場合、本に書かれていることをその理解のみで終わらせず、書かれていることを実際にやってみるような経験があればと思います。
第二の問題は、学習レベルが同じ学年の方たちよりも先に進んでいるお子さまは、クラスの中で浮いてしまう場合があることを忘れてはいけません。
そういうお子さまは、子供どうしで遊ぶよりも、大人と話している方が楽しい傾向にあります。
大人は、対子供ということで節度を持った話し方をしますから、子供どうしでよくありがちないざこざというものはありません。
子供たちは、周囲との時には理不尽なやりとりの中で成長していきます。
子供同士で遊ばない子は、そういうやりとりの機会が少ないまま、大人の中でいい子のまま成長してしまうことが多いのです。
もちろんこれは、成長とともに友達どうしの交流は必ず増えてきますから、その子なりに人間関係のバランスが次第に取れるようになります。
しかし、そうはいっても、そこまでの苦労はご本人にとってはかなりあると言わねばなりません。
第三の問題は、よくできるお子さまは、傍目にはそう見えなくてもやはり無理をしてよくできる子になっていることが多いということです。
子供たちは、本当はくだらない漫画などをだらだら読むような生活もしたいものです。
しかし、いい子でいるためには、保護者の方が喜ぶようないい本を読まなければなりません。
いい本はもちろん面白いのですが、そういう本ばかり読むとか、そういう本しか読まないということは、人間のバランスとして不自然なことです。
今は少子化の時代なので、お子さまは保護者の方の目を離れて自由な時間を持つということは、なかなかありません。
自由に脱線することができる時間がないということが、無理として出てくる場合があります。
その無理は、軽い場合は保護者の方への反発として出てきます。
小学校低学年でいい子であったお子さまほど、小学4、5年生の自立意識が目覚めるころになると、保護者の方の言うことを聞かなくなるのです。
しかし、保護者の方への反発は成長とともに解消されていくので、それほど
大きな問題ではありません。
無理を重ねたことのもっと大きな問題は、学年が上がるにつれて次第に無気
力になってくることです。
無気力も軽い場合は、学習に対する無気力程度です。
小学校低学年のころ学習ができた子が、中学生、高校生となるにつれて次第に学習に対する関心を失っていきます。
問題と言えば問題ですが、生活に差し支えるほどではありません。
しかし、重い場合は、生活そのものに無気力になってしまうことがあります。
今のご家庭は、核家族的な形で過ごす時間が多いため、祖父母や近所の家族との交流があまりありません。
そうすると、どうしても親の価値観だけで子育てが進んでしまいがちにらなります。
このように考えていくと、保護者の方が手がかからないと考えておられるよくできるお子さまにも、関心を向けなければいけないことがわかってきます。
保護者の方はいつも全体のバランスを考えて、お子さまと関わっていく必要があります。
ひとつの視点は、いいことも悪いことも度を過ぎない程度にやることです。
もうひとつは、お子さまが保護者の方の価値観から離れて、自由に生活できる時間や場所を、必ず確保してあげることだと思います。