アルゴの中学受験日記

中学受験を通じて成績と連動する真の努力の形を伝えます

国語力をつくる

言葉は文化を映す鏡

言葉は文化を映す鏡

馬頭琴はモンゴルの民族楽器であり草原のチェロと言われます。中国の二胡にも似た弦楽器で、「スーホの白い馬」でおなじみです。楽器の先端に馬の頭の彫刻が飾りつけてあるのがとても印象的であり、楽器の弦と弓は馬のしっぽから作られているとのこと。本体部分は現在は湿気に強い木製ですが、むかしは馬の骨や皮を使っていたそうです。モンゴルでは馬がそこまで生活の中にとけ込んでいたのでしょう。

そんなモンゴルなのでモンゴル語には、馬の毛色を表す言葉が驚くほど豊富にあるということです。「全身の毛色や斑紋や、たてがみの色や、鼻面の斑紋など、日本語や英語で完全に表現しようとすると一行ほどの長さにもなる毛色の区別を、モンゴル語では一語で言える」(学習研究社「チンギス・ハーン大モンゴル“蒼き狼の覇業」より)のだそうです。例をあげてみると、こんなかんじです。

ボル    :芦毛 青っぽい白。灰色を中心に白~灰黒まで幅広い色合いを含む
ゼールド :栗毛 黄褐色を基調としたもの、うす茶。
フレン   :栃栗毛 黒みがかった黄褐色で、栗毛の中でも濃い茶。
ヘール  :鹿毛 赤褐色を基調とした毛色、こげ茶。尾毛とたてがみは黒。
ボーラル :粕毛 鹿毛、栗毛系統の原毛色に白が全体に混生。いわゆるさし毛。
ハリョーン :白みがかった黄淡色でたてがみ、尾毛は黒。かわうそという意味。
ホンゴル :赤っぽい薄黄色で、たてがみ、尾毛は黒。いわゆる赤い馬     …等、まだまだ続きます。

政府による定住政策がとられるまで、遊牧民族であるモンゴルの人々にとって馬はなくてはならない存在でした。人々は牛、ラクダ、羊やヤギとともに家畜として馬を放牧し、馬に乗って狩りをし、馬の乳を発酵させた馬乳酒を飲み、大草原を移動したのです。モンゴルではまさに馬が遊牧民族の生活を支えていました。財産である何百もの馬を識別するために、今もモンゴルの人々はこの毛色のほか年齢、体や毛の特徴、性別や駆け方、歩き方までも細かに観察し、分類しているそうです。

日本でも、競馬の馬を識別するときは毛色が基本になり、血統書には必ずその他の特徴などと一緒に記載されます。しかし、モンゴルでは毛色を表す言葉だけで四百とも五百ともあるといわれ、さらに、その他の分類方法も含めると数は限りがなく、馬を識別することがいかに重要であるかがわかります。馬とともに生活する人々にとって、その健康状態、性質などを図る目安にもなる馬の識別に、言葉がいくらあっても多すぎることはないのでしょう。生活に必要不可欠であったからこそ、生まれた言葉なのです。

日本語の毛色は鹿毛、栗毛、河原毛、粕毛、芦毛、月毛など、どれも他の動植物などの色を借りて表現したものです。それに対してモンゴル語は、他の動植物の色彩名から借りたものは少なく、大体が馬の毛色自体が語源ではないかと思われるものがほとんどだそうです。それだけ、モンゴルの人々と馬のかかわりが歴史的にも深いということがわかります。

「言葉はそれぞれの民族の風土的、歴史的、社会的環境の中で育まれた文化を映す鏡」(鯉淵信一「騎馬民族の心」より)といいます。日本語もしかり。日本には雨を表す言葉が非常に多いと言われています。「五月雨」「時雨」「篠突く雨」「氷雨」・・・等。それだけ日本という国が雨とともにある国だということでしょう。

言葉の意味や語源を考えながら、大切に使いたいものです。平成の大合併で失われた歴史的に由緒ある地名を惜しむのは私だけではないでしょう。逆説的にいえば、「自国の言葉を大事にしない民族はその風土・歴史・文化を消滅させる」ともいえるのです。

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